腸がキレイになると免疫が活性化され更に酵素が作られる-新谷弘実先生の腸内環境理論

1 はじめに
私が外科医レジデント(研修医)として、アメリカに 留学したのは1963年のことです。この前年は、レイ チェル・カーソンの『沈黙の春』が出版された年で、 人類が20世紀に生んだ農薬や化学合成物資が自然と 人体にもたらす異変について、初めて警鐘が打ち鳴ら されたのでした。
当時のアメリカは「豊かさを象徴するための大量生産・大量消費」が台頭してきた時期で、人々の食生活もま さに飽食の時代でした。このころの医学界では、ほん の小さなポリープを切除するのでも、開腹手術をしな けれぱなりませんでした。そんな負担の大きい治療法 に疑問を抱いていた私は、1969年、世界で初めて大腸内視鏡を使って、開腹することなく大腸ポリープを切除できる画期的な方法を研究し成功しました。
やがて、内視鏡を使って検査を行ううちに、きれいな 良い腸相をしている人は健康状態もよいことに気づきました。
以来、私は約35万人 の検査と10万人のポ リープ切除手術を行 い、その臨床・研究の 経験を通して、健康と は、正しい食生活と腸 内環境を良くする"排 泄"が基本だと確信し ました。

2 食生活の変化で、最大の負担がかかっていた腸
私は日本とアメリカで40年近く診察を行ってきまし た。
1960年代に入ると、日本でも食生活の洋風化が進み、 高たんぱく・高カロリーの食事をとるようになりまし た。インスタント食品や外食の比率も増え、さらに大気汚染、環境汚染、土壌の変化、電磁波の増大、農薬・ 化学肥料など、人体に有害な環境の変化が起きました。
35万人の腸を診察した経験から、それらの弊害が"腸" に現れてきていることが解りました。
健康によい食生活とは、

1)自分が生まれた土壌で栽培されたものを自然のまま食ベること(身土不二)
2)穀物・豆類を5、野菜・果物を2、肉類・魚介類 を1の比率で摂取すること
3)動物性たんぱく質は、なるベく魚介類から摂ること
4)体によい食習慣を守ること
良く噛む習慣
夕食は就寝前4~5時間前にすませる習慣 規則正しい時間帯に食事を摂る習慣
大食をしなく「腹八分」の食事量を守る習慣
なるベく間食を避ける習慣
5)味噌、納豆などの発酵食品を摂ること
6)糖分の摂取量を増やさないこと
7)食品添加物が多い加工食品やインスタント食品を避ける

3 不完全な消化物(残滓)が腐ってガスを発生

大腸内をコロノスコープで検査しますと、便がたまり やすくなっている大腸のヒダの間に、大腸ポリープやがんが発見されます。大腸内に憩室ができたり、腸の痙攣が慢性的に強くなっている部位はとくに便の流れが悪くなるので、便の溜まり場になります。
また、腸内の有益菌は加齢にともなって減少し、逆に有害菌が増してきます。子供や若年者でも、潰瘍性大腸炎、クローン病、アトピー、喘息などのアレルギー 疾患のある人たちは、健康な人に比ベて腸内環境(腸 相)は非常に悪く、有害菌が増えて乳酸菌(有益菌) が非常に少なくなっています。
腸にとって有害菌となるのがウエルシュ菌、クロストリジウム、ブドウ球菌、緑膿菌、ベイオネラ菌、大腸菌などです。これらは、消化されなかった食べ物のカスを腐敗させることに関わる腐敗菌で、腐敗の過程で硫化水素、インドール、フェノール、スカトール、アンモニア、メタン、アミンなどの有毒物質、毒素が腸内に多量に発生します。また、これらの腸内細菌や腸粘膜細胞によって活性酸素(フリーラジカル)、過酸化脂質も発生されると思われます。

ガスや毒素は、腸内環境を悪くするだけでなく、さらに大腸の粘膜から血中に入り、身体に悪影響を及ぼします。
血液が汚れると、血行障害やリンパ腺の鬱滞を起こします。血液の流れが悪くなると、皮膚から心臓血管まであらゆる身体の機能を低下させ、新陳代謝がスムースに行われなくなります。すると、最初にその人の生まれつきもっている遺伝的に弱い臓器や組織が刺激を受け、これがさまざまな炎症や病気の発生原因となったり、がんを引き起こすと考えられます。

4 腸の汚れが、万病の元

通常、大腸内のガスの量は健康な人で50~200cc位と思われます。体外に放出されるガスの量は、食事の種類、便排泄の頻度、腸内衛生管理(コーヒー・エネマの励行の有無)でも個人差がありますが、腸相の良し悪しや健康状態を見るバロメーターになるといえます(巻末の内視鏡写真をご参照下さい)。
多数の高名な医学者が、便秘や停滞便(宿便※1)即ち大腸の内容物の停滞と汚れなど、さまざまな病気との関係を指摘しています。        .
こうした大腸の基本的な衛生管理を提唱するのは、胃腸や栄養学に携わる医師だけにとどまりません。最近では他の医療関係者の間でも「人間の健康にはきれいな腸、腸の浄化と活性化が大切だ」という考え方が特に強くなってきています。
痔、大腸ポリープ、大腸がん、乳がん、前立腺がん、心臓血管障害、肝臓・胆嚢疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、前立腺肥大、関節炎、リュウマチ、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患、子宮筋腫、乳腺症、膠原病、高血圧、脳梗塞、糖尿病などの病気の人たちは、大腸機能の衰え、機能不全などと強い関係があると考えられています。
大腸の中では、食べ物の質の良し悪しにかかわらず、常に発がん物質が生まれています。発がん物質が長く留まると、発がん物質から細胞が刺激を受ける時間が長くなることから、大腸ポリープや大腸がんが発生しやすくなります。
病気との診断がつかないまでも、食欲不振やはき気、頭痛、めまい、肌荒れ、ジンマシン、肥満、にきび、倦怠などといった症状も、腸の内容物の停滞との関係は明らかで、腸内の有害物質が腸壁から吸収され、血中に入って引き起こされると考えられます。私の多くの患者さんの大腸診察からも、これら病気の人たちの大腸は、便の停滞があって汚れており、腸相が異常に悪いといえます。

※1宿便:排泄されないで腸のヒダや腸壁に停滞している便

5 便秘薬は、腸本来の機能を奪う

小腸で栄養の吸収が終わって、大腸に入った食べ物のカスは、できるだけ早く排泄することが、体を健康に若々しく保つポイントですが、世代を問わず慢性的な便秘に悩む人は多いものです。
便秘や宿便(停滞物)によって大腸の機能が低下したり、さまざまな毒素や活性酸素は、動脈硬化のほかいろいろな生活習慣病、がん、老化などの最も大きな原因といわれています。
こうした便秘や宿便ヘの解消法として、多くの人が安易に頼ってしまうのが便秘薬です。しかし医者の立場から言えば、これには、腸の動きや粘膜に対する毒性などいろいろな副作用があると警告せざるを得ません。たとえアロエやセンナ、大黄などの自然な薬草や漢方薬でも、その中にアントラシンという化学物質が含まれており、腸粘膜を変色させます。メラノーシスという色素沈着症を発症させ、それによって大腸のポリープやがんもできやすくなると思われます。また便秘薬を飲めば飲むほど腸の動きは悪くなり、薬の量が増えたり、効きにくくなっていきます。

6 サプリメントや乳酸菌などは、まず腸をキレイにしてから

右側にできる大腸憩室は、精製された穀物(白米、 白パン、パスタなど)の多い人にできやすく、また左側の憩室(特にS字結腸、下行結腸)は肉を多く食べる人に見られます。動物性食品である肉、鶏肉、牛乳、乳製品は、がんや心臓病などのいろいろな病気になりやすい体質を作る食べ物です。

人間はもともと植物食に向いた消化機能をもっているので、肉、鶏肉、牛乳、乳製品、魚などの動物たんぱくや脂肪を完全に消化することはできません。

柔らかく弾力性のある若い腸にする、つまり腸相を良くすると、腸内環境が良くなり、乳酸菌などの有益菌が多くなります。有益菌が多いと、自然治癒カや免疫カが増強し、酵素も作られ血行も良くなるので、がんや他の生活習慣病予防の大きな要因になります。腸相の良くなる良い物を食ベ、高齢になっても有益菌が減らないように腸内環境を整えなければなりません。体によいものを摂るにしても、まず腸をきれいにしてから摂取することが大切です。