坂井 本日は、帯津先生のホリスティック医学の考え方についてお聞きした後、若干質問をさせてください。また、ガンの人たちに対して、治ったとかということ以外にも、もっと知ってほしいことや、この病院での奇跡などをお話しいただければと思います。
患者さんの中には、絶望的になられる方も多いと思います。そして、その一方で、周りでは何とか助けたいと願う人たちがいる。そういう方たちに向けて、全体的に考えた方が良いことなども、お聞きかせください。
帯津先生 ホリスティック医学は、日本のホリスティック医学協会ができたのが
1987 年、アメリカが 1978 年。 9 年の差があるわけですね、アメリカのほうが早いのです。
西洋医学が部分をしっかり見る医学に段々なり、全体を見ることを怠りだしたと。あるいは部分と部分との繋がりを怠りだしたことに対する、反省とか批判からホリスティック医学って考え方がでてきたわけですよ。
そのホリスティックっていうのはとにかく全体を見よう、人間をまるごと見ようという考え方なんです。結局はね、アメリカあるいは英語圏でよく言われるのは、人間はボディ・マインド・スピリット、体・心・命からなると。これが一体となった人間まるごとを、そっくりそのまま捉えていこうじゃないかというのが、ホリスティック医学の考えですよね。
これが、日本で 1987 年にできたわけですけど、その前はどうだったかというと、私がこの病院を始めたのはホリスティックという考えではなくて、中国医学と西洋医学をあわせていました。でも、考え方としてはホリスティックっていうとこが出てきたのと比較的近いんです。
だけど、私はやっぱり西洋医学の限界を感じて、西洋医学は部分をしっかり診るけど、部分と部分の繋がりを見落としてるということで、繋がりを診る医学を入れないと、ガンの治療成績は上がってこないと思って、それで中国医学に目をつけたわけです。
中国医学っていうのは、元々陰陽学説とか五行学説ですから、これはすなわち繋がりです。だから、中国医学を入れようと。それでこの病院を発足させたのは、 25 年前です。だから、西洋医学と中国医学の四本柱、漢方薬に、鍼灸に、気功と食養生ですね。これを供えて出発したんです。
そうこうしてるうちに、ホリスティック医学協会の前身であるホリスティック医学研究会っていうのを、東京医大の学生さんたちが作って、これが今でもその学生さんたちが日本ホリスティック医学協会の中心的役割を果たしてるわけですけどね。もうみんな医者です。その頃は医学部の学生です。その人たちが研究会作って、私みたいにその中国医学をガンの治療に入れたりしてる人っていうのは、その頃は珍しかったから。私のところへ来て、研究会で話をしてくれないかと。それが彼らとの付き合いの始まりなんです。
そして、何回か付き合ってるうちにね、研究会で大学の中でやってたってしょうがないからと、日本ホリスティック医学協会として、学生だけじゃなくてもっと一般の人をいっぱい入れたものを作ろうと。それが、 87 年に発足したわけです。
そのとき私自身は、西洋医学と中国医学で、部分を診る医学と繋がりを診る医学をあわせれば、これで人間丸ごとじゃないかと。なんだ、私がやってることがホリスティックなんだと、初め思ったんです。だけどね、すぐにそうではないなと思いついたのは、ボディ・マインド・スピリットの、心のところが西洋医学でも、中国医学でも非常に乏しいわけです。だから、心の治療とか心の支えをやらないと、これはだめだろうと。
それで、ホリスティック医学協会には心理療法士さんが、 大体女性ですが、 たくさん入ってたんです。だから、心療内科のホリスティック医学研究会を立ち上げた代表である 降矢 先生に頼んで、心のチームを作ってもらったんです。彼がね、「私が行きますよ」と、うちの病院の常勤になってくれたんです。それで、 2 人の女性心理療法士さんを連れてきて、ここで患者さんの心の支えを行っていくチームを作ったんです。
それができて、心が入ったので、これで本当に人間丸ごとだなと思ったんですけど、少し経つとそれでもおかしいなと。やっぱり人間丸ごとをそっくりそのまま捉えるというのは、そういう方法論なり、システムがないとおかしいんですよね。
ただ治療法いっぱい集めてやったって、下手な鉄砲数打ちゃあたるってなるんですよね。だから、これはとにかくそういう方法論、システムを追い求めていかなきゃいけない。それで今に至ってるんです。
がんは心と関わる病気
ガンのような病気が治りにくいのは、ガンという病気は体だけの病気じゃなくて、心とか命にも深く関わった病気だということを、現場にいると骨身に沁みてわかってきますよ。心の持ちようでいかに推移が違ってくるかって、ガンになる・ならないのところから、治る・治らないに至るまでね。
結局ね、西洋医学だけでガンに対して手をやいてるのは、西洋医学はどうしても体だけを診ようとするから、心や命というのは、ゼロじゃないけど、見方が非常に乏しいですよ。だからここで、丸ごと掴むホリスティックに、病気そのものが丸ごとなんだから、医学のほうも治療のほうも丸ごともっていかなきゃ。ホリスティックがどうしても必要なんです。
私の場合はかなり前からですけど、患者さん一人一人と戦略会議というのをやるんです。戦略会議は朝やるんですけど、それは一人一人個性的に、この病気をどうやって乗り切ってくかということを相談するわけです。そのときに、戦略会議ですから、患者さんの意向を重視するわけです。患者さんが戦争でいえば戦う本人ですから。だから、私たちがそれをサポートするわけで、主人公は患者さんですから、患者さんの気持ちを最優先して、私がこれやったほうがいいのになと思っても、やりたくないことはあえてやらないわけです。
その個性的にやってくという場合に、どういう風にやるかっていうとね、まず体に働きかける西洋医学と、心に働きかける各種心理療法、命に働きかけるのは様々な代替療法があります。健康食品、タヒボ茶、みんなそこからやってくわけですね。
こういうものをね、一つ一つよく吟味して、一人の患者さんに重ね合わせて戦略とするわけですね。代替療法なんていうのは世の中に数え切れないぐらいあるから、初めからマニュアル化はできません。だから、個性的なんですよね。
具体的にどういう風にやるかというとね、一定の順序があって、まず心の問題から入るわけですよね。このガンという難局にいてね、こういう病という状況の中にいて、どういう気持ちの中で生きてくかということ。それをちょっと話し合いますね。うちの患者さんはみんな勉強してますからね、私の本なんか大抵隅から隅まで読んでるし、改めて言わなくても、いいんですよ。
悲しくて寂しくても良い。希望の種をまけば
心の持ちようでやっぱり大事なのは、私が最初心理療法のチームを作るときは、患者さんをじっと見てて、明るく前向きな人のほうが経過がいいと思って、ならば明るく前向きな心を患者さんに持ってもらおうと思って心理療法のチームを作ったんです。
けどね、心理療法のチームが動き出してみると、どうも違うなって気になってきたんです。明るく前向きっていうのは、すごくもろくてね、一言で崩れ落ちますよ。にこにこして私の部屋に入って来たのに、あなた肝臓の影が大きくなってるなんて言うとね、急に青くなっちゃうんですよ。
だから、明るく前向きっていうのは人間の本来の姿ではないなってすぐに気がついたんで、これは撤回したんです。
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聞き手:がん克服サポート研究会サポート 坂井 |